アルミダイカストの技術開発
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静岡大学工学部教授
中村 保教授
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浜松を中心とする遠州地方は、輸送機器、特に自動車やオートバイの製造を支える部品加工業が集積している地域で、鋳造、板材成形、鍛造、樹脂成形、機械加工、溶接、塗装、メッキ、までの要素技術を得意とするメーカーが多数存在する。
平成17〜18年にかけて、浜松商工会議所を管理法人として、要素技術の体系化と応用技術のノウハウを形式知化して継承するとともに、先端技術開発を進める中核人材の養成を行う「輸送機器製造業を支える中核人材育成事業」が行われている。
平成17年度には教材作りを行い、18年度にそれらの教材を用いて実証講義を行う計画となっている。この事業の中でも、アルミニウムダイカストの応用技術の紹介がなされている。 |
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ヤマハ発動機の山縣裕氏らは、真空ダイカスト技術を用いて、図1に示すようにスポーツバイク車体の一体フレーム化を実現した。
スポーツバイクでは車体重量が運転性能に大きく影響するため、図2、3、4に示すように、軽量化のためアルミニウムの使用比率が高まっている。また、一体フレーム成形が可能になると、バイクのスタイル設計の自由度も増すため、とくに高品質の真空ダイカスト技術開発が実を結んだ結果である。
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図1 大型バイク アルミダイカスト |
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製品 |
モーターサイクル |
マリン エンジン
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アルミ 使用比率
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10% |
25% |
40% |
50% |
図3 スポーツバイクに使われている鋳造品の素材比較
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図2 オートバイ・船外機のアルミニウム使用比率 |
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図4 スポーツバイクにおけるアルミニウム部品 |
図5-A ダイカストにおける射出シリンダライナでの欠陥発生 |
強度
伸び |
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慣用のダイカスト品では強度が十分がでなかったり、溶接や熱処理が困難になるのは、図5-Aに示すようにガスの巻込み、酸化物の巻込み、潤滑剤や離型材の巻込み、破断チル層等の凝固片の巻込みが原因である。とくに、図5に示すように、アルミニウム素形材中の含有ガスが多いと強度と伸びが極めて低くなる
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0.1 1 10 100 |
図5-B アルミニウム製品中のガス量(ml/100g) |
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そこで、山縣氏らは、ダイカストの利点を活かして、強度向上、溶接や熱処理の困難さを克服するため、図6に示すような、真空ダイカストに、つぎのような技術開発を行い、実用化した。1)金型キャビティ部の真空度を3kPa程度の高真空に保つために、リーク部全てにシールを入れた。
2)多系統の温度調節機により金型の温度制御を精密に行って、金型の温度バランスを良くして湯流れ向上を図った。また、冷却速度を制御することにより材質改善を行った。
3)湯流れシミュレーションにより最適な金型方案を設計し、とくに薄物の湯流れを改善した。
4)部品形状に最適な注入速度の選択と制御を行った。
5)製品中の酸化物やガス量を低減するため、溶湯の清浄化処理を行った。
これらの技術開発により、ガス混入量3ml/100g以下に抑えることができ、薄肉、大型のダイカストの実現が可能になった。その結果、溶接やT6処理ができる車体部品やエンジン部品の製造が可能になった。
現状では、このような高品質ダイカスト製品は、高級な大型スポーツバイクに限られているが、コストやリードタイム削減が進めば、小型バイクや、さらに自動車へも、高品質ダイカスト技術が応用されるものと期待される。
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図6 Vacum Globe Box法ダイカスト技術 |
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引用文献 “山縣著:アルミニウム車体およびエンジンブロックへの高品質ダイカスト技術の適用,鋳造工学,第76巻,第4号(2004), 272-277” |
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